第3章 三日月 -月の満ちはじめ-
ブゥン、ブゥン
小刻みに振動音が聞こえてくる。
「ん?電話……って……また……」
繋心からの着信は、私を心底うんざりさせた。
別に繋心が嫌いだとかそういうわけじゃない。
けれど、出てしまったらまた面倒なことになりそうだと直感が告げる。
10秒ほど震え続けた電話は、やがてぴたりと止まった。
諦めてくれたか。
そう思ったとたん、再び携帯電話が震えだす。
「しつこ……っ」
繋心からの再びの着信に、また無視してしまおうかと思ったけれど、私の手は勢いで着信応答を押していた。
「……もしもし」
『お、なんだ出るじゃねーか。お前今どこにいるー?』
「……家だよ」
『おぉ、じゃああの居酒屋来いよ!今嶋田なんかも集まってっから』
「無理」
『無理じゃねーだろ』
横暴な言葉に私は手に持った携帯電話を今すぐ投げつけたい衝動に駆られる。
なんとか抑えて冷静に声を出した。
「あのさ、私、戻って来たって行っても実家じゃないの。駅の方で独り暮らししてるから。この間はたまたま帰ってただけ」
それだけ言って通話終了を押した。
また、しつこくかかってくるかと思ったけれど、その日はそれ以上繋心からの着信で電話が震えることはなかった。
なんだか気分を削がれたような気になって、乱暴にテレビを消してそのままお風呂に入る。
肩こりに効くと謳っている入浴剤を入れて、浴槽にずぶずぶと体を沈めた。
ふぅ~と、年寄りくさい声が漏れる。
「……あ、またラスト見損ねた……」
あのスパイ映画の結末を、結局、見ることは無かった。
まぁ、今更知ったところで、ね。興味のある映画でもないし、誰に感想を言うわけでもない。
……あの時、もし私が起きていたとして、
映画を観終わった後に、彼とラストの話で盛り上がったんだろうか。
あのアクションが凄かっただとか、予想外の展開だったとか、そんな会話をしていたのだろうか。
もし今日、あの映画の結末を見ていたとして……
他の誰かに、その話をすることなんて、あるのだろうか。
「どーでもいいか……」
また一つ、深いため息を吐いて、私はゆっくりと目を閉じた。
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