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【イケメン戦国】私と猫と

第28章 桜の咲く頃  四幕(十二歳)


羽織を持ち上げタシタシと褥を叩き、白粉に休めと誘導する
幾度となく、「休め」と話の合間に言われるのだ
仕方ないと折れたのは白粉
のそのそと褥に入ると身を横にした

「寝るの!ねんねっ解った?」

最初は怒った顔をしていたのに、今は心配だと眉を下げる湖に

「お前は、本当にコロコロと表情を変えるな」

と、白粉は苦笑した
そして、「解った。今日は一日休む…良い子にしていろ」と言い目を瞑ったのだ

(よかった…やっと休むって言ってくれた…)

少しの間、そんな母を見守り

(あ、そうだ)

白粉の額に、お守りの口づけを落とす

(かかさまが、ゆっくり休めますように…)

すると、額に桃色に輝く光が現われる
小さく柔らかな…ろうそくのような光だ
それは、直ぐに白粉の額に吸い込まれるように消えていった

心地よい寝息が聞こえる
湖は柔らかな笑みを浮かべ、静かに部屋を出た

部屋を出れば、そこには幸村の姿がある

(ゆき、珍しい…)

湖の部屋近くの板張りに、瞑想するかのように静かに座って居るのだ

「幸?どうしたの?」

寝てはいないだろうと、幸村に近付き声をかければ

「…やっと出てきたか」

と、片目を開けて湖を見る幸村は少し疲れた顔に見えた

「うっ…ごめんね、なんか…私へんな事言った記憶がある」

幸村も思い出したのか「あー…んー、まぁな」と返答を濁した

「湖、信玄様が呼んでる。今いいか?」
「ととさま?…うん。わかった」
(なんだろう…?)

幸村は、何時になく表情がないのだ

(兄さまみたいな幸村…見たことない)

それについて声をかける前に歩き出してしまった幸村を止めるまでの理由は見当たらず、湖は後ろを付いて信玄の部屋に向かった

近付けば、近付く程、嫌な気配を感じる

(これ…)

部屋に入る直前、湖は幸村の袖を引いた

「幸、いつから?いつから、ととさま調子悪いのか教えて」

幸村は、自分を見上げる湖の目を見て小さく息をつく

「昨日の晩からだ」
「昨日…」
(昨日からで、こんな…見なくてもわかるような感じがするの…?)

これから視界に入るであろう黒い靄を想像し、湖は無意識に喉を鳴らした
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