第7章 戸惑う心
応援要請と言っても使える医者が来るとは限らない。
頼りにならず、むしろ連結を乱すことだってある。
吉と出るか凶と出るか、来てみないことには分からない。
私がやるしかない。
神崎の居ないこんな時に……。
珍しく動揺した様子を露わにする神那。
どうしよう……どうしたら……。
その単語だけが頭の中をぐるぐると回転して行く。
早く判断しなきゃ患者が死ぬっていうのに……。
私の頭は要らないことばかり考える。
こんな時に、何をしたら良いか分からないなんて……!
いつもと違う自分に憤りを感じる。
「大丈夫だ、落ち着きなさい」
ポンッと肩に乗った手の温もりと声の正体を私は知っていた。
ここに居る筈のない、馴染みのある声。
その声に安心してしまう自分が腹立たしい。
「神崎……」
神崎の声だ。
ゆっくり声のした方を振り返ると、そこにはスーツ姿の神崎が立って居た。
いつもの緩い笑顔じゃない、真剣な医者としての神崎の顔。
「どうして?まだ講演会の筈じゃ……」
そんなこと今はどうだって良い。
今は患者の処置が最優先だ。
神崎が今ここに居る理由なんて後回しで良い。
そう思う私の意志に反して口は動く。
これが安堵というものだろうか。
「話はあとでにしよっか。
神那ちゃんは向こうの現場に行きなさい。
ここは僕がなんとかするから」
有無を言わせない神崎の低い声。
自分が動揺し迷ってしまったことに苛立ち、自身の薄い唇を噛んだ。
切り替えだ。
切り替えて目の前の命に向き合うのが今の私の役割。
私がここに居る意味だ。
「……お願い」
「うん、任せなさい」
弱々しくそう呟き、隣のテントへと向かった。
隣のテントにも処置待ちの患者が多数居る。