第3章 危ない夜
「酷い…。」
正直、傷や血が苦手な私は目を背けたくなった。
それくらい、徹の体は傷だらけだった。
特に徹が言った背中の擦り傷は、数センチ程の大きさだった。
新しいガーゼに消毒液を染み込ませ、そっと背中の擦り傷に当てた。
「徹…なんでケンカなんてしたの?」
「…別に。ちょっとイライラしてたから。」
「イライラしてたからって…まったくもう!」
私は大きな絆創膏を背中の擦り傷に貼り、上から叩いた。
「いってえな!叩くなよ!」
「お仕置きです。」
徹はバツが悪そうな顔をした。
少しは反省したかな?
私は箪笥からバスタオルと大きめの長袖Tシャツとジャージを取り出して徹に渡した。
「なに?」
「お風呂入っておいで。服、ちょっと小さいかもしれないけど徹なら着れるでしょ。」
「…サンキュ。」
徹は素直にお礼を言って浴室に向かった。
今日は本当に、怖いくらい素直だ。
明日は雪でも降るのかな…。
私は徹がお風呂に入っている間に食べかけの食事を温め直し、徹の分の食事も用意した。
浴室から出てきた徹を見て、私は笑ってしまった。
Tシャツはそれほど違和感なく着れているが、ジャージが七分丈常態なのだ。
「やっぱり小さかったねー。」
「そんなに笑うことか。」
徹は呆れた顔をして床に座った。
「喉渇いた…。」
「麦茶かアイスティーしかないんだけど…。」
「麦茶がいい。」
「はいはーい。」
二人分の麦茶を持って、一つを徹に渡した。
徹はそれを一気に飲み干した。
「あー…なんか生き返った。」
「それは良かった。あ、徹ご飯食べるでしょ?」
「食べる。」
「今お味噌汁とご飯よそってくるね。」
味噌汁とご飯を持って戻ると、徹は肉じゃがと睨めっこしていた。
「人参がいる…。」
「よけて食べて下さい。ていうか体に良いから食べなさい。」
「絶対に嫌だ。」
子どもみたいな徹に呆れつつ、彼の前にご飯と味噌汁を置いた。
「私も食べてる途中だったの。」
「そうか、食事中に悪かったな。」
徹は小さくいただきます、と呟いて食べ始めた。
黙々と食事をする。
二人の間に会話は無い。
徹は人参をよけながら肉じゃがを食べている。
「徹、おいしい?」
無表情、無言で食べる彼に思わず聞いてしまった。