第32章 番外編:恋病メランコリー【ep-01】
「局長が心配していた。いつか壊れるんじゃないかとな。」
「――大丈夫だろ、あの女は。」
何せ可愛くないし、と言う言葉はどうにか呑み込んだ。
1年彼女を見ていて思ったのは、男どころか他人に縋る事が出来ないタイプだと言う事だ。
全て自分で解決してしまう完全自己解決型。
そう言う人間は強いと慎也は思っていた。
「本当にそう思うか?」
「何が言いたいんだよ。」
「――別に。仕事だ。狡噛監視官。」
「仕事?」
話が繋がっていないように思えたが、『仕事』と言う言葉に慎也は背筋を正す。
「ストーカー被害が出ている。」
「は?」
「被害者の名前は日向泉。彼女の住所だ。張り込んで捕えろ。」
「――は?」
その有り得ない任務に、慎也は呆然と立ち尽くした。
「けたたましく笑い声を立てる狂人に、安らぎすら覚えた夜。」
「――何してるんですか?」
家の前にいる慎也に、泉は思い切り顔を顰めた。
「――張り込みだよ。」
「意味が分かりません。そこウチですけど。」
「知ってる。――ストーカーに遭ってんだろ?」
「何でそれを?!」
過剰に拒否反応を示す泉に、慎也は何故だか酷く苛立った。
「あのなぁ。こう言う時ぐらい俺やギノを頼れ。何の為の同僚だ。」
「必要ないです。自分でどうにか出来ますから。すみません。お手を煩わせて。帰って頂いて大丈夫です。」
捲くし立てるように言えば、泉はドアを開けて足早に家の中に入ろうとする。
慎也は舌打ちをすれば、無理やりそのドアを手で抉じ開けた。
「狡、噛さん――!」
「良いから入れろ。寝ずの番してやる。」
後ろから低く唸るような声で言われて、泉は思わず身を竦ませた。
半ば無理やり部屋に上がり込んだ慎也は、意外とカラフルな泉の部屋に口笛を吹く。
「――なんですか?」
「いや、意外と良い趣味してんな。てっきり可愛気のねぇ部屋に住んでると思ってたぜ。」
「それはイメージを壊してすみませんでした。」
皮肉たっぷりに言われて、慎也は思わず眉根を寄せる。
泉はコートを脱げば、慎也を振り返る。