第21章 『停滞』 4
ブリッグズか。
今ここを治めているのはアームストロング少佐のお姉さんだ。
直接面識はないが話には聞いた事がある。
ロイは色々と文句を連ねていたし、少佐はやはり自慢の姉として話をしてくれた。
そう言えば、北にはファルマン准尉が来ていたと思う。
会いに行ってもかまわないのだろうか。
「あの……僕、北、初めてなので見て回ってもよいでしょうか。もし、中将に不測の事態などあれば、動けなくては元も子もありませんから。」
「新人。仕事熱心だな。」
いいぞ、行ってこい。
あっけらかんとそう言われ僕はこの温かい休憩室を出た。
廊下は少し寒々としていて寂しかった。
ブリッグズの兵士たちは慣れた様子で厚手の軍服を着こなし、寒さから一刻も早く逃れるためかテキパキと僕の横を通り過ぎていく。
道行く人にファルマン准尉の事を聞いて回ると、やはり確かにここにはいるが姿は見てないと言われた。
そしておまけで面白い話を聞いた。
「でかい鎧と小さい少年と一緒にいるところを見た。かぁ。」
ロイがそんな情報を寄こしていた事を思い出した。
北とはいえざっくりした情報だった。
まさか、こんないち軍事施設で会えるとは毛ほども思っていなかったが、どちらにしろ再会は速そうだった。
「救護班急げっ!」
ドタバタと僕を追い抜かして言った担架を持った兵。
あの様子から見て何かあったとしか思えない。
はっ!レイブン中将だ!
カツコツと足音高々、意気揚々と言った雰囲気で僕の横を通り過ぎて行った。
……とっさに隠れてしまった。
バレなきゃいいんだ。バレなきゃ。
そして、レイブン中将がやってきた方向、そちらには大きな空間がありそうで、青い軍服に、ここのものとは明らかに違う黒いコートを着ている僕は隠れてもしょうがないと、芝居じみた感じで「何かあったのですか!?」と首を突っ込んでみた。
「…ふん。中将の部下か。」
にわかに、とは言い難い恨みのこもった視線を全身にいただいてしまった。
ここにいる集団の中に、いつだったか写真で見たことのある女性の姿を捕えた。
「あ、アームストロング少将。」
「レイブン中将なら、今ここを出て行ったぞ。」
物凄く目でこちらを威嚇してくる少将。
元監査としては色々と彼女の功績は聞き及んでいるところだった。
ロイが可愛げの全くない人と言うのが少し理解できた気もする。
