第35章 ・牛島兄妹、留守番をする その3
「うまかった。」
若利の手が頭に置かれた。思わぬ事に文緒はキョトンとする。そろりと見上げた義兄の顔はあまり変わっていないように見えたが何だか満足げだった。
「ありがとうございます、兄様。」
「明日も頼む。」
「はい。」
「はい出ましたー、今日も若利君は愛妻弁当ー。」
次の日の昼休み、食堂にて天童がニヤニヤして言った。
「何の話だ。」
「またとぼけちゃって、文緒ちゃんが作ってくれたんでしょ。」
「その通りだがあれは嫁ではない。」
「えー、説得力ない。」
「天童お前その辺にしとけ、若利はともかく文緒が困るから。」
「英太君はさり気に文緒ちゃんを気にするスタイル。」
「お前いっぺん酢で締めてやろうか。」
「俺は鯖じゃないからねっ。」
わあわあ言い合う天童と瀬見に特に思う所はなく若利は持ってきた弁当の包みを開けて食し始める。
「嬉しそうだな、若利。」
大平が笑う。
「悪い気はしない。」
「そうか。文緒さんが来て良かったな。」
「そうだな。」
若利は頷く。
「ところで」
何も考えずに若利は言った。
「何故最近文緒を俺の嫁にしたがる奴が出る。」
「その辺の鈍感は当分改善されそうにないな。」
大平はため息をついた。
次章に続く