My important place【D.Gray-man】
第18章 ロザリオを胸に
──コンコン
脱衣所から聞こえたノック音に、心臓が跳ねる。
『雪ちゃん、大丈夫? 何かあれば言ってね、手伝うから…』
ドアの向こうから心配そうに声をかけてくれるミランダさんに、我に返る。
しまった。どうやら鏡の前で、長いこと考え込んでしまっていたみたいだ。
「だ…大丈夫。すぐ上がるから、待ってて」
いけない。今は任務中。
AKUMA討伐もイノセンス回収も済んだけど、教団に戻って報告を済ませないと任務は完了しない。
慌ててミランダさんに返事をして、急いでバスタブに入ってシャワーの水栓を捻る。
熱いシャワーが頭から降り注いで、足元を真っ赤に染めていく。
AKUMAの血と、私自身の血が、混ざり合って排水溝に吸い込まれていった。
体は瞬く間に綺麗になっていくのに、心にこびり付いた不快感のようなものは消えない。
額にできた真新しい十字傷。
頭から被ったAKUMAの血は、少なからずその傷口に触れたはず。
普通の人間が毒素あるAKUMAの血を体内に入れれば、悪影響を及ぼす。
だけど私の体は、どこも支障ない。
寧ろ影響を受けたのは、イノセンスである"退魔の剣"の方だ。
それがもう、答えなんだろう。
バスタブの中で膝を抱いて座り込む。
その膝に顔を埋めて、熱いシャワーを全身に浴びた。
私は人間であって。
多分、普通の人間じゃない。