My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「た、たすけ、て…」
「っ誰かに拐われたの?此処は何?」
「た、すけて…」
「助け出すから教えてっ」
「っ…わからな、い…船…のせられ、て…」
(船?遠方から?)
辿々しい声で応える女性は、声と同様に弱い力で鉄格子を掴む雪の手に縋った。
濁って淀んだブラウンの目。
焦点の合っていない瞳は、明らかに様子が可笑しい。
「お願…たすけ…」
叫ぶ力も残っていないのだろう。
掠れた声で静かな悲鳴を上げる女性に、雪はぐっと唇を噛み締めた。
重なったのは、地下独房での己の姿だ。
「待ってて、今すぐ此処から───」
「誰だッ!?」
「!」
鋭い声は開け放った扉の方から飛んできた。
振り返れば、雪の姿を捉えた男が大股にこちらへと駆けてくる。
「何者だ!此処で何をしてるッ!」
がつりと胸倉を掴まれる。
大柄な男を前に、しかし雪は怯まなかった。
「別に何もしてません。これから、」
「っう、お!」
「するところですけどッ!」
「グふッ!?」
胸倉を掴む太い腕に両腕を絡ませ、腰を落とし捻り上げた。
そのまま男の巨体を背中に背負うと、一本背負いで床に叩き付ける。
ドスン!と男の体が背から落下すると同時に、ガチャンと金属音が響いた。
見れば、男のポケットから滑り落ちたのだろう、鍵の束が。
(しめた!)
「うぐ…オイ、何を…!」
「おやすみなさい!」
「げブッ!」
鍵束を拾い上げると同時に、手を伸ばす男の顎を容赦なく一蹴り。
がくんと落ちる顔を確認して、雪は重い錠の付いた扉に飛び付いた。
「これ…じゃない、これも…違うっこれは…鍵が多過ぎ!」
恐らく捕虜達の枷の鍵も入っているのだろう。
どれを差し込んでも鍵穴には合わず、抜いての繰り返し。
それを繰り返していれば、ようやくガチャリと凹凸が合う音がした。
「(開いた!)皆、早く出て…!」
「…?」
「ボケっとしてないで立って!すぐに気付かれる、出口までの脱出を図るから…!」
婦人の扉さえ潜り出てしまえば、後はどうとでもなる。
しかし雪がどれだけ捲し立て腕を引こうとも、例の女性以外はまるで慌てる素振りを見せなかった。