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My important place【D.Gray-man】

第46章 泡沫トロイメライ



✣ ✣ ✣ ✣






























最初は、匂い。




「───」




真っ暗な闇。
瞼を閉じて作られた暗闇の中でも、鼻を突いてくるは微かな甘い匂い。

匂いが強く変わると同じに、真っ暗な視界の闇が色味を帯びていく。
瞼の毛細血管が照らされ見える、赤黒い視界。
瞳を開ければ其処には眩い世界が広がっているのだろう。
わかり切っていたことだから、自然と利き手で額に手を翳した。




「………」




ゆっくりと瞳を開く。
真っ先に入り込んできたのは強い陽のような光。
眩く白い世界。
目が眩み自然と眉間に皺が寄る。
それでも再び目を瞑ることなく、雪は目の前の世界をじっと見据えた。



───ピチャン…



次は、水音。

何か滴り落ちるような雫の音は、聞き覚えがある。
ぽたり、ぽたりと滴り落ちていく。
透き通るような涙のような雫達。
それは目の前の幾重も頭を下げた、がく片から滴り落ちていく。
がく片にしがみ付いていた薄い桃色の花弁が、はらりと水場に落ちた。

眩い世界。
地面一面が水に覆われ、背をも越える高い花の茎が、空に向かって一面伸び進めている。



(…ああ、また)



あまりにも見覚えのある、あまりにも心に突き刺さる、あまりにも幸せで、あまりにも哀しい世界。

知らないようで知っている。
知っているようで知らない。
いつも自分だけ置いてけぼり。

独り。
それを淡々と強調してくるだけの世界。

現実でないことは、幾度も目に映しなんとなしに理解していた。
それでも心は泣きたくなるのだ。




「…嫌な夢…」




思わず雪の口から漏れたのは、悪態にも似た言葉だった。
輝く世界に佇む二つの人影を遠目に見つけて、自然と顔が暗さを帯びる。




「…っ」




見たくない。
と思えば自然と両手は耳を塞ぎ、目を背けていた。

追いかけたい。
声をかけたい。
しかしそれができないのは、もうわかっている。

男と女。
黒い団服に身を包んだ、恋人同士の幸せそうな光景だ。
この世界はその二人だけの為に在る。
それ以外は不要な者。

わかっているのだ。
二人が充分に幸せなことも、何者も介入できないことも。

わかっているからこそ、



(もう、見せつけないでよ)



心が嫉みで歪む。

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