第38章 昔馴染みと月明かりー路地裏イチャイチャin自来也&綱手ー
綱手の目がますます細くなる。
「…奢り?」
さっきまでえずいていたのに、帰るんじゃなかったんですか、綱手さん。
「…五軒目?」
いやいやいや、行きすぎですよ。そりゃ気持ち悪くもなりますよ、綱手さん。
「…悪くないな…」
路地裏の猫が鳴く。
「潰れてもちゃんと送ってってやるから安心せい」
生真面目に言う自来也を綱手も生真面目に見返した。
「送り狼はごめんだ」
「一応親切者の送り狼なんじゃが」
自来也の手が綱手の腰に回る。
「酔っ払いの親切なんかあてになるか」
その手を抓って綱手は腕組みした。
「たまには素面で正々堂々と口説いてみろ」
「酒抜きでか?」
「酒抜きでだ」
「酔いが覚めると照れちまって話にならんじゃろうが。お前」
「そこは矢張り私も女だというか何と言うか」
「いい年こいて何を抜かす」
「年の話はするな」
「してもしなくても年は変わらんじゃろ」
自来也が腕を伸ばして、今度は綱手の肩に手を回した。頭ひとつよりなお小さい綱手を抱き寄せる。
「寒くなって来ると無性に呑みたくなるのぅ」
「人肌恋しくなるからだろう」
肩に回った自来也の手を綱手が叩き落とす。その頭を自来也がめげずに撫で回した。
「人肌恋しくなるのか?」
「なるらしいな」
「わしゃ寒くなくともいつも人肌恋しいがのぅ」
しっとりと吸い付くような綱手の頬に指を滑らせ、自来也はふっと笑った。眉根を寄せた綱手の目尻が仄かに紅い。
「五軒目は何処に行く?お前のうちにするか」
「ここでもいいと言ったら?」
「ほう」
自来也が目を丸くして綱手の紅い顔を覗き込んだ。茶化すような、でも和やかな笑みを口許に刻んでまたその頬に触れる。
「思い切った事を言うのぅ。わしはまるで構わんがいいのか?」
笑っているが自来也の目はふざけていない。綱手の答えをじっと待っている。
綱手は一度口を開き、何か言いかけて呑み込み、一息いれてまた口を開いた。
「いや。やっぱり呑み直してから考えよう」
月が明るいから。こんな路地裏にまで綺麗に射し込む月明かりにあてられた。
自来也が触れた頬をぐいと肘で拭って、綱手はよろけた自分に気合いを入れた。
「一杯やって頭を冷やす」
「冷やしちゃうのか。詰まらんのぅ」
「じゃあ帰る」
「なら送る」
「要らん」
「要る」
