第6章 練習試合“これが、黄瀬涼太”
[美空]
「で、なんで広瀬も一緒なのよ…。」
屋上で約束した日から、一週間。ついに、バスケ部の練習試合の日。
私は、撮影機材を体育館の2階席に運んでいた。
「なんでって、お前の我が儘で、バスケ部だけの特別号外出すことになったんだろ。
記事書くために、見に来たに決まってんじゃん。」
「…我が儘って……」
広瀬の言ってることに多少の引っ掛かりを感じながらも、否定はしない。
この前の写真の黄瀬くんを、“黄瀬涼太”として全校生徒に、見せるわけにはいかなかった。
私は、取材用の一眼レフを取りだし、撮影の用意を始める。
「…お前、練習試合に何台カメラ持ってきてんだよ。」
「え?撮影用は2台。プライベート用は鞄の中に1台あるけど、こっちは今日は使わないよ?」
そう言いながら2台のカメラに大口径の明るいレンズと、200mmの望遠レンズを装着する。
300mmの望遠レンズもすぐ取り付け出来るように、カメラケースの定位置に固定した。
「…俺が言いたいのは、そこじゃないんだけど…。ま、いいや。それより、練習試合、ハーフコートでやんのかな?」
「…そうかもね。」
私はカメラを準備していた手を止めて、コートを見渡した。明らかに、体育館の半分しか、空けていない。
「練習試合って、こんな小規模なもんなの?」
「さぁ?」
私は、試合に向けて準備体操をしている、選手たちをパシャリと撮った。