第28章 《 side S 》 時間の使い方
「えっ、いや、あの…」
突然ドレッドの男性に話しかけられてオドオドしていると、静雄が勢いよく振り返ってわたしの肩を掴んだ
「?!あーもう、居るなら言えって…怪我してねぇか…?」
「う、ん…」
安心した表情を見せる静雄に、わたしも笑顔になって「お仕事お疲れ様」と言ってみた
彼の背後から感じられる微妙な空気
「なー静雄、その嬢ちゃん、もしかしてお前の…」
「そっす」
静雄はどこか照れくさそうに笑って、サングラスを中指でかけ直した
「あの、俺の上司の、田中トムさん」
静雄が上司という立場の相手を紹介するところは見たことがなかった
正直、慣れない感じがしてちょっと面白い
トムさんと呼ばれた上司は、はたまた慣れない様子で会釈をする
すごく愛想の良い人だった
「じゃあね、頑張って」
「…おう」
じゃあねと言うには早すぎる気がしたけど、彼も一応勤務中だ
寂しそうな顔をしてるのは分かってる
でもまた、帰ったら存分に……
「あの、彼女さん」
わたしが進行方向に進もうとした時、トムさんはわたしに声をかけた
「今度静雄と3人で、昼飯でも食いましょう」
「へ?」
予期していなかった言葉のせいで、わたしの語彙力が一瞬の間にどこか遠くへ飛んで行ってしまう
「その方が静雄も嬉しいだろうな……ってよ」
トムさんは静雄の背中を軽く叩いて、わたしに笑顔を見せた
静雄は叩かれた反動で背筋をピンと伸ばす
「そんな…気を遣っていただいて、ありがとうございます」
深々と頭を下げてまた顔を上げると、静雄は嬉しそうな顔でトムさんに視線を向けていた
そして「じゃあな」の一言
片手を上げてそう言う静雄に、わたしも手を振って応えた
「じゃあね」