第5章 鬼灯の日記
周りには多くの人が賑わい、楽しげに目の前を過ぎ去っていく。
けど、今の私にはそんな人達の動きが遅くなって見えた。
「風…」
名前を叫ぼうとして、慌てて口を押さえた。
ここは京で、新選組がいるのに。迂闊に風間さんの名前を出して聞かれでもしたら。
少しだけ残っていた冷静さに救われて、でもその冷静さを維持する事は出来なくて、少しずつ足を前へと運んでみる。
私はお世辞にも背が高いとは言い難い。
でも、辺りを見回すと、私とほぼ同じ目線の人が多かったようにも思える。
それだけの事ではあるけど、今となっては有り難かったり。
「でもどうしよう。現在地を把握しようにもさっぱりだし、やっぱり見つけてもらうのを待つ事しか…ん?」
この時、前方から知った顔が近付いて来るのが見えた。
ただただ合流最優先だった私は、考えなしに真っ直ぐその人のところへ向かった。
良かった!救われた!これで風間さんとの合流もなんとか…
「颯太君!」
「ん?人違いじゃないか…って颯太?お前、夜真木颯太を知ってるのか!?」
「え?…って事は貴方は平す…藤堂さん!?」
嘘!?本物の平助!?やったあ!
…なんて、本当ならテンションが上がった事だろうと思んだけど、これは間違いなくマズい事態。
よりにも寄って新選組である彼に見つかるなんて。しかも颯太君を知ってるって事がバレてしまった。
「ちょっと待ってくれ。話聞かせてもらってもいいか?」
藤堂さんは柔らかい口調で話してくれたけど、どうせ私が拒否しようと、解放はしないはず。
私自体は新選組を悪くは思ってない。けど、敵方に居る以上は想定される事態で。
どうしよう。言葉が出ない。喉が潰れたみたいに、声が詰まって出てこない。
その時だった。
「人間、手間を増やすな。」
「かっ風間さん!?」
「風間!!何しに京に来た。」
藤堂さんの目の色が一瞬にして変わった。敵意を示す瞳の色は鋭くて、私も風間さんも串刺しにする。
「たかが幕府の犬に答える道理は無い。どうする。ここで俺に挑むか?」
「ここでお前を斬る気はねえけど。そうか。そいつ、薩摩の奴って事か。」
でもそれ以上の騒ぎになる事も避けられた様で、お互いにこの場は引くという形で収束した。
…というか、こんなに人が大勢いるところで諍いになったらそれこそ騒ぎになるし。
お互い引くしかなかったんだよね。
