第51章 キスミー
「もしかして……遠いんですか?その大学」
「あー、ちょっとね。そのことで話もあったんスけど、今日はもう遅いからまた今度にしよっか」
ふたり並んで歩く帰り道。
陽が落ちて気温を下げた空気が、結の決意を促すように火照る頬をちくりと刺す。
「あの……」
「ん~、なんスか?」
肩を抱く手に引き寄せられて、心臓が早鐘を打つ。
「あ、あんなこと言っておいて、今更……だっていうのは分かってるんですけど」
「あんなコトって?」
首を傾けて、こちらを覗き込んでくる黄瀬から視線を逸らせると、結は大きく吸いこんだ息を、ゆっくりと吐きだした。
「一緒に……つ、ついていってもいい……ですか?」
隣で息を飲む気配と、自然に止まる歩み。
だが、この気持ちを伝えることだけはやめるわけにはいかない。
今だけでいい。
ほんの一歩、前に踏み出す勇気を。
「今の大学は休学してもいいですし、別の大学に入り直すことだって出来ます。だから」
もし迷惑じゃなければ……という弱気な言葉を喉の奥に飲みこむと、結は声を振り絞った。
「離れたくないんです。一緒に……いたい」
静寂の中で、ドキドキとうるさいほどに脈打つ鼓動が、身体を内側から激しく揺さぶる。
緊張のあまりふらつく身体を、そっと抱きとめてくれる広い胸に額を押しつけて、結は未だに返ってこない答えに身を固くした。
「オレが行きたいって思ってる大学、神奈川なんスけど」
「大丈夫です。神奈川でもどこでも、って…………え、神奈川?」
完全に先走ったことを後悔しても、もう遅い。
肩を震わせる黄瀬の腕の中で、だがいまさら否定することも出来ず、結は目の前の胸を小さく叩いた。
「そんなの、聞いてない……です」
「ウン。まだ言ってないからね」
「……ズルい」
「オレだって、こんななし崩し的に言うつもりじゃなかったんスよ。まあ、でもこの際だから言っとこっかな」
「え」
「実はまだ、続きがあるんスよ」と声色を変える言葉に導かれるように、結は腕の中から顔を上げた。
街灯を背に、試合に臨む時のようにピンと張りつめた空気の中、影を落とす真剣な顔。
今度こそ悪い知らせかも知れない──そう覚悟を決めた時。
「オレと
一緒に暮らしてくれる?」