第40章 ストーリー
子孫を残そうとする動物的な本能でも、ただ快感を貪ろうとする原始的な欲求でもなかった。
かすかな吐息も、こぼれる声も、流れる汗でさえ、味わった事のない甘美な蜜のようで。
夜の湖面を音もなく揺らす波紋のように、シーツを静かに乱しながら、唇を重ね、足を絡め、お互いの肌をお互いの汗と涙でぐっしょりと濡らす。
交わる熱で、このまま跡形もなく溶けてしまっても構わない。
最愛のヒトとカラダもココロもつながりたい。
ただ、それだけだった。
絡み合い、上に下にとベッドを転がるふたつの身体。
ときおり、まるでワルツを踊っているかのように見つめ合い、ふたたびステップを踏む。
窓の隙間から差し込む月の光だけが、切なくも穏やかな情事を淡く包み込んだ。
「……結、オレ……も、っ」
「あ、っ……りょ、た……涼太」
焦点がボヤけるほど顔を近づけて、朦朧とした意識のなか、瞳の奥に宿る気持ちを確かめ合う。
ゆっくりと重なった唇が離れてしまわないように、乱れる呼吸の下で絡めた舌は、火傷しそうに熱く。
枕を掻きむしっていた手は、いつの間にか力強い手に捕獲されてシーツへと縫いとめられていた。
(ずっとこの手と……少しでも長く繋がっていられますように)
激しさを増す律動にすべてを委ねながら、白く弾ける意識を手放さないように、絡めた指に力を込める。
「ハッ、結……いっしょに、翔ぼ」
「う、ん……一緒が、いい……ン、ああぁ――……っ!」
「く……うっ!」
迸る情熱を全身で受け止める……それは、なにものにも変え難い幸せな瞬間だった。