第39章 セミファイナル
全国高等学校総合体育大会──通称インターハイ。
全国高等学校バスケットボール選手権大会を兼ねて行われる、バスケットボール夏の全国大会の今年の開催地は秋田県。
キセキの世代と呼ばれる天才を有する超強豪校が集結するとあって、今大会もバスケ界の注目をおおいに集めていた。
「暑……っ」
東北とはいえ、容赦なく肌を焼く八月の陽射しに手のひらを翳すと、結は会場への地図を確認するため携帯を手に取った。
だが、照り返しがキツくて画面がよく見えない。
「あれ?キミは確か……」
駅の喧騒に紛れて耳に届くそれは、キャンディのように甘い声。
手もとに落としていた視線を上げた結は、周囲の女性達の視線を一身に背負いながら近寄ってくる長身の男性の姿に、パチパチと目を瞬いた。
左目にかかる長めの前髪と、柔らかな物腰。
もっとも、温厚そうに見える彼もコートの上では別人のように熱く、洗練された正統派プレイとその能力は、キセキの世代と遜色なしと評価されて久しい。
「……陽泉の、氷室さん?」
「ああ、やっぱりそうだ」
夏らしく、少し短くなった髪を軽やかに揺らしながら、氷室辰也はふわりと微笑んだ。
「あ、私は……」と言いかけた唇を制止する指は、バスケの流麗なダンスを彷彿とさせる流れるような動き。
キザなリアクションも全く嫌味に感じさせないのは、バスケ以外に持ち合わせた天性の才能かもしれない。
「水原さん……でしょ?確か、タイガと一緒にいたよね」
「はい。水原結です。お会いしたのはあの時だけだったのに、まさか覚えててくれたなんて……嬉しいです」
「はは。こんな可愛らしいレディのことを忘れるわけないだろ」
耳に心地よく響く声と、聞いている方が赤面しそうな台詞。
ここはホストクラブか。
「ハハ、ありがとうございます……」
「今から会場に向かうのかい?偶然会えたのも何かの縁、よかったら案内させてもらえないかな。ほら、荷物貸してごらん」
あっという間にカバンをさらわれて、「行こうか」と優雅に微笑む右目の下のホクロが、ゾクゾクするほど色っぽい。
(これは……間違いなくNo.1の微笑みだ)
行ったこともない夜の店に迷い込んだような錯覚に目を回しながら、結はよろけそうになる足に力を込めた。