第37章 ホーム
「駄目だ」
だが、甲を噛んだ手はすぐに木吉に剥がされて、結は唇を噛みしめた。
「ぁ、ん、ん──……っ」
「声、抑えないで。もっと聞かせてくれないか」
「や、そんなの……っ」
「好きなコの可愛い声を聞きたいのは、オトコなら当たり前だろ?ホラ……」
後ろから耳をねっとりと舐められて、否応なく跳ねる下半身。
ぬるめのお湯の中、ふわふわと浮いて思うように力が入らないことを狙っていたかのように、足の付け根にすべり込む手につま先が泳ぐ。
「やあっ!木、吉さ……ん、んっ」
「すまん。でも、こうして少し慣らしておかないと……つらいのは結、だから」
少し我慢してくれと気遣う声とは裏腹に、始まった愛撫の性急さに気持ちも身体も追いつかない。
抵抗するようにすり合わせた膝も、たくましい腕を止めることは出来なかった。
「あ、……っん」
パシャパシャと跳ねる水音とくぐもった声が、絶えることなく浴槽に響く。
胸をまさぐる手に乱されて、身体を包んでいたタオルは水底に沈み、密着する肌からダイレクトに伝わる昂りがその勢いをより増した。
「指、挿れるぞ」
少しの恐怖心と高揚感に包まれながら、入口を擦るようになぞっていた指がツプリと埋まる感覚に、結は背中を弓のように反らせた。
「ん、ぅ……あ、っ」
「痛かったら言ってくれ。止めてはやれないけど、な」
ほぐすように触れてくる指先を、だが異物だと勘違いする本能が、その侵入を拒むように収縮を繰り返す。
「あ……あっ」
「力、抜いて」
「どう、やったらいいの、か……分かんな、い」
「……その台詞、クるな」
鼓膜の奥にトロリと流れこむ余裕のある声に、何か文句のひとつでも言ってやりたいのに反論の言葉は出てこない。
「もっと奥まで俺を感じて……ゆっくり、そう」
「ひ、ゃ……っ」
掠れた声に反応して、隙間がゆるむのを見透かしたかのように押し込まれる指を、結の身体は徐々にのみ込んでいった。