第37章 ホーム
「よし。じゃあ行くか」
「行くって何処に……ちょっ、木吉さんっ!?」
今から訪れる夜を示唆するような、アレックスの贈り物。
大人すぎる演出を胸に抱えたまま、木吉に手を引かれて連行されたのはまさかのバスルーム。
(わ、すご……)
清潔感のある真っ白なバスタブと、何人並べるのかというくらいに広い洗面台の前には、綺麗に磨かれた大きな鏡。
自分の部屋ほどの広さに感動したのも束の間、蛇口から吐き出されるお湯が浴槽を叩く音に、結はようやく我に返った。
「一緒に来た意味が分からないんですけど」
「別に意味なんかないぞ。ただ、先に風呂かなと思っただけで」
腕をクロスさせて何の躊躇いもなく脱いだTシャツの下から現れた上半身から、結はあわてて目を逸らした。
「わ、私は後で……どどどどどうぞ、ごゆっくり」
「こら、何処行くんだ?一緒に入るに決まってるだろ」と背中から強い力で抱きすくめられ、心臓はバクバクと大騒ぎ。
(ナニ言ってるんですか!?この人は!?)
部屋までついて来たことの意味はモチロン理解していたが、こんな展開は全くの想定外。
「一緒、って……な、何を馬鹿なコト言って、は、離して下さいっ」
「無理を言ってるのは分かってるさ。だが、もう我慢なんて」
「木吉さ……」
腕の中で反転させられて、覆いかぶさってくる木吉の瞳に欲情の色を認める暇はなかった。
「出来るわけないだろ」
「ん、っ……」
温和な性格からは想像できない情熱的なキスを受け止めるのは、これで二度目。
奪いつくすような唇に翻弄されて、結の腕から音もなくすべり落ちた箱が、存在を主張するようにカタリと音を鳴らした。