第36章 アイテム
今日は絶対にエッチはしない
熱い誓いを胸に秘め、黄瀬は自宅の玄関を勢いよく開けた。
「ただいま!」
パタパタと床を叩くスリッパの音と、空腹に染みわたるコンソメの香り。
(お、もしやこれはオレの好物……)
斜め掛けにした海常のロゴ入りエナメルバッグを肩から外すと、黄瀬は鼻から大きく息を吸い込んだ。
「おかえり……なさい?」
「ハハ。なんで疑問形なんスか」
照れたような声に口許を緩めながら、ダイニングから姿を見せた恋人の方へ顔を向ける。
「…………へ?」
ドサリと落ちたカバンが足を直撃。
だが、痛みすら感じる余裕もなく、黄瀬は瞳を縁取る長い睫毛をパチパチと瞬かせた。