第34章 トラップ
(ちょっとくらいなら……バチは当たんないよね?)
いつものように髪を結んだ彼女の、ほっそりとした白いうなじが目にまぶしい。
「ね、相談料もらっていいスか?」
「え、まさかの料金制?」
弁護士なら30分で……と冗談か本気か分からない顔で、トボけたことを言う彼女に苦笑い。
「ホント、分かってないんだから」と小さくつぶやいて、掠めるように奪った唇は朝よりも甘く、ペロリと舐めた舌がもっと欲しいと騒ぎだす。
「結、リップ……つけてる?」
「ん、少し……」
「お誘いってこと?仕方ないっスね」
「ち、違っ……ぅ、ん」
朝、ベッドの上で交わしたキスよりギアを上げて、激しく舌を絡ませる。
角度を変えて何度も、唇を、舌を、貪るようなキスは終わらない。
「も……駄目っ、ン」
「オレも、そー思うんスけど……ちょっと、止まんない」
これ以上のくちづけを拒もうと、顔を逸らせた彼女の耳をパクリと食んで、尖らせた舌を忍ばせる。
「ひゃ、ん……っ」
「ゆうべから、ずっとお預けだったから……その可愛い反応、スッゲくるんスけど」
「ま、待って……」
「発情した犬にマテは効かないんスよ。てことで、今日はふたりで遅刻……しちゃおっか?」
「い、意味が分かりませ……ん、ちょっ」
シャツを引っ張って抵抗する手に、説得力は微塵もない。
「ヤバ……完全に、スイッチ入ったかも」
「キャプテン……が、さぼっちゃ……ん、ぁ」
愛撫に反応する身体が堕ちるまで、あとひと押し。
そして、彼女の弱点は完璧に把握済みだ。
「今朝は自習練だから問題ないんスよ。ね、結……どーしてもダメ?」
耳に吐息を吹き込むと、絡めた指がピクリと弾け、密着する身体が湿度を上げる。
地面を叩きつけるような雨が空から落ちる中、玄関が開く気配はいつまでたっても訪れなかった。
end