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【黒バス】今夜もアイシテル

第33章 サイン



日曜だというのに、体育館の入口を埋め尽くす女子生徒の群れがザワザワと不穏に蠢く。

これまでも、彼女を妬む声は確かにあった。

だが、モデルだけではなく、バスケ界でも有名になりつつある黄瀬には今、校内で質の悪いファンクラブが出来上がっていて、正直手を焼いていたのだ。

「ゴメン。ちょっと通してくれる?」

お目当ての本人からの声を無視することも出来ず、渋々といった雰囲気のなか、出来上がった道の両側から聞こえるのは、明らかに悪意に満ちた声だった。

「ホラ。またリョータに取り入ろうとして」
「いい加減、目障りなのワカンナイのかな〜」
「何あれ?演技なんじゃない?」

あからさまな中傷の声に、黄瀬の口角がふたたび引き攣る。



いったい彼女が何をした

彼女の何を知っている



背後に立つ後輩からも伝わってくる、苛立ちと怒りが混ざった感情の渦に、黄瀬は唇を噛んだ。

(──もう限界。これ以上は無理っスわ)

「あの、さ」

らしくない低い声に気づいたのは、ひとりだけ。

その言葉の続きを遮るように、Tシャツを引っぱる小さな手は、彼女からの制止の合図。

だが、黄瀬はその手をやんわりと包みこむと、胸の奥深く息を吸い込んだ。

これはケジメだ、男としての。

「前にバスケ部への差し入れはともかく、オレ個人のプレゼントは受け取れないって言ったの覚えてる?今、オレには付き合ってるコがいるって話も」

その内容はともかく、黄瀬に話しかけられたと歓喜にわく顔が、コクコクと肯定の動きを見せる。

「彼女なんだ、オレの大切な人は」

漠然とそんな予感を抱きながらも、今まで恋人の名前を伏せていることに一縷の望みを繋いでいたファンにとって、ある意味、それは知りたくなかった真実なのかもしれない。

悲鳴をあげることも許さないような毅然とした声に、その場の空気が凍りつく。

腕の中で、違う意味で硬直する身体に、自分の決意を告げるように肩を抱く手に力を込めると、黄瀬は小さく頭を下げた。

「今まで黙っててゴメン。いつも応援してくれる皆には、ちゃんと言っておくべきだったと思う」

懸命に怒りを抑えた、精一杯の言葉だった。

「いつも、ホントにありがと。でも、これ以上オレの大事な人を悪く言うの、止めてくれないかな」

頼むよ……と伏せられた瞳に、声をあげる者はもういなかった。





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