第31章 チェンジ!
世間ではGWという名の大型連休の真っ最中。
テレビ画面を飾るのは、家族や友人、そして幸せそうな恋人達が、空港のターミナルから浮き浮きと旅立つ画ばかり。
そんな賑わいに反して、海常バスケ部のスケジュールは例年以上にびっしりと埋まっていた。
新レギュラーでのフォーメーションの確認のため、連日組まれた他校との実践的な練習試合をこなす日々。
試合後、録画したDVDで反省点と今後の対策を話し合いながら、居眠りをする黄瀬に監督の怒声が何度も飛んだ。
唯一オフだった土曜日の午後。
「映画行く?遊園地とかもいいっスね。あ〜、でも混んでるかもしんないから、うちでゆっくりってのもアリかな?」
子供のようにはしゃぐ黄瀬に、「オフっていうのは、身体を休めるための日なんですよ」と結は努めて冷静な声を出した。
「ええーーっ!?ずっとバスケばっかで、結が足りなくてもう枯れそうなんスよ!ふたりでどっか遊びに」
「ミーティングの最中、居眠りしてたくせに」
「そ、それは……ホラ!春はあけぼのって言うじゃないっスか」
勘違いというにはあまりにも残念な反論に、結は軽くむせた後、額に手を当てた。
春という季節にズレがあることを、いまさら指摘する気にもならない。
「もしかして、春眠暁を覚えず……のことですか?」
「アレ?そーだったっけ?ま、とにかく春は眠いってことっスよ」
「勉強するなら付き合いますけど」
「そ、それは遠慮させてもらうっス……」
急に大人しくなった黄瀬に「じゃ、ゆっくり休むこと。いいですか?」と言い含めながら、結は素直な気持ちに蓋をした。
「はぁ……」
ぽすんと転がりこんだベッドの上、結は首の鎖にそっと手を伸ばした。
真新しいチェーンをシャララと滑るのは、もう肌にすっかり馴染んだピアスと、見慣れない新顔。
それは小さな宝石が埋め込まれた、リング状のペンダントトップだった。
「会いたい……な」
だが、未だに続けている早朝のロードワークをはじめ、陰でトレーニングを欠かさない彼に今必要なものは休養だ。
(我慢、しなきゃ。私にはこれがあるんだもん)
指先でそっと持ち上げたそれは、嫉妬に駆られた黄瀬に激しく抱かれたあの日、彼から贈られたネックレスだった。