第29章 リーダーシップ
今年も桜の季節がやって来た。
それは黄瀬涼太が海常で迎える、三度目の春だった。
「アレがキセキの世代の天才、か」
「やっぱホンモノは迫力あるよな。なんか俺達とは別格っつーか、素質が違うっつーか」
不躾な視線を平然とした顔で受け止めながら、黄瀬はひしめく入部希望者の前で笑顔を見せた。
「知ってるやつも多いと思うけど、一応自己紹介しといた方がいいかな。オレは三年の黄瀬涼太、ヨロシクっス」
整った顔によく似合う、少し甘めのテノールが空気をやわらかく揺らす。
「おいおいキャプテン。軽いな」
「あんま堅苦しい挨拶は苦手なんスよね。後ろにいる他のメンバーは追々覚えてくれたらいいし、まぁそれもヨロシクってコトで」
青の精鋭とも呼ばれる海常高校バスケットボール部。
全国区のチームを今年率いるのは、知名度も全国区のキセキの世代のひとり、黄瀬涼太だ。
その本人を目の前にして緊張気味だった新人部員達は、人懐っこい笑みを浮かべる主将にホッと胸を撫で下ろした。
「質問です!バスケ部に女子マネいないってマジですか?」
そんな質問が飛ぶほどに、リラックスしたかに見えた体育館の中、同意するようにざわつく面々を見下ろす黄瀬の表情に特に変化はなかった。
「あ〜うちはここ何年、マネージャーの募集してないんスよ。もし、マネージャーとの甘酸っぱい出会いを期待してんなら他に行ってくれる?」
「い、いえ……そーいうワケじゃ」
わずかにトーンを変えた声に、迂闊な質問者は挙げた手をおずおずとひっこめた。
「よく言うぜ。自分はちゃっかり優秀なマネージャーとくっついたくせに」
「う、うるさいな。アレは特別……ていうか状況が違うんスよ」
背後からすかさず入る指摘の主は、今では本音で話せるチームメイトのひとり。
幸い、一年生達にその会話は届かなかったようだが、黄瀬はチラリと後ろを振り返ると、唇の前に人差し指を立てた。