第81章 そして誰もいなくなった
「女の子の笑い声みたいな…っだよねマリっ」
「ああ」
「げぇ!まじかよ…!やめろよ女の笑い声とか!」
「此処に少女なんていませんよ…!」
「ったくうっせぇな。何騒いでんだよ」
青い顔して慌てふためくラビ達に、騒ぎを聞きつけた神田が口を挟む。
と、
───ひヒ…ひヒヒヒ…ヒヒ…
不気味な声が、木霊した。
「な、なんだ…?」
「何、声?」
今度は南とマリだけでなく、この場にいる者達の耳にはっきりと。
「ほら聴こえたでしょっ」
「ま、まぁ…ウン。空耳カナ」
「ソウデスネ」
「って現実逃避しない!こっち向いて二人共!」
ざわめく周りの反応に、ほらねと南が笑顔を向ければ、ラビとアレンは明後日の方向を眺める始末。
どうにも簡単には認めたくないらしい。
「も、もしかして…っおっおっお化け…っ!?」
「「まさか」」
びくびくと口走るミランダの言葉を即座に否定する所、やはり余程認めたくないらしい。
「どうせコムイの悪ふざけだろ」
そんな二人に対して、同年代の神田だけはどこ吹く風。
顔色一つ変えず、寧ろ呆れた顔で言い放っていた。
「室長の悪ふざけ…なのかな、マリ」
「…それにしては可笑しい。私の耳でも、この声が何処からしているのかわからない」
「うん。確かに」
ぴこぴこと南の頭上で揺れる獣耳は、あっちを向いたりこっちを向いたり。
木霊のように響く不気味な笑い声は一定の場所からは聞こえず、あちこちで上がっていた。
マリの聴覚でも捉えられないとなると、果たしてそれはコムイの仕業なのだろうか。
南の顔に不安の色が浮かぶ。
しかし。
「いーや!絶ッ対!室長だ!」
「室長しかあり得ない!」
「室長ーッ俺ら忙しいんですよ!」
「邪魔しないでくれませんか!」
「つーか仕事しろ巻き毛ーッ!」
科学班一同だけは、頑なにコムイの仕業として譲らなかった。
一番近くで被害に巻き込まれながらも付き合ってきた、コムイの悪質な悪戯をよく理解しているからこそ。
こんなホラー紛いな悪趣味なことをするのは、彼しかいないと踏んでいた。