第80章 再生の道へ
「じゃあな。部屋まで気を付けて帰れよ」
「ぁ…あの、班長っ」
「ん?」
南の頬から離れる手。
背を向けて去ろうとするリーバーを止めたのは、胸の前で拳を握った南だった。
「あの…私も、しっかり休んで怪我を治します。だから…班長も、休める時は、休んで…下さい」
自分より仕事ができて上の立場であるリーバーに、こんなことを言うのは失礼かと思い言い淀んでいた。
しかし彼も同じなのだと悟った。
同じに仲間の死を簡単には受け入れられずに、葛藤して、藻掻いている。
その藻掻きが体に鞭打って仕事することならば、簡単には止められないかもしれない。
しかし、そんなリーバーを支えたいとはっきり伝えられたのだ。
何が正解かなんてわからないが、彼の隣に共に立って共に生きていくのならば、その歩幅を合わせることも時には大切なのかもしれない。
手が届く距離で。
「あんまり…一人で、無理しちゃ駄目、ですよ…」
言い難そうに、それでも至極心配そうな面持ちで投げかけてくる南の言葉に、リーバーの唇の動きが止まる。
(…参ったな)
そんな表情でそんな言葉を投げかけられれば、無視できるはずもない。
「ああ、わかった。肝に銘じるよ」
目尻を下げて苦笑混じりに肩を竦める。
背中を向けていた体を、きちんと南と向き合わせて。
「それなら南も早く戻って来いよ?」
早くその姿をまた瞳の中にとどめたい、と思った。
しかと触れられる距離で。
「待ってるから」
「…はい」
ぽん、とリーバーの大きな手が南の頭に乗る。
くしゃりと一度だけ撫でる仕草は、何も変わらないいつものリーバーのまま。
南は微かに目を細めて微笑むと、確かな返事で頷いた。