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科学班の恋【D.Gray-man】

第80章 再生の道へ



「班───」

「っなら…」



呼び声は掻き消された。
微かに震えるリーバーの声で。



「生きて、くれるか」



近過ぎる距離に、リーバーの顔は見えない。
強い抱擁と震える声だけが、くぐもるように耳に届いて。

予想のつかない行動に、予想のつかない言葉。
南の思考は止まったまま、同じに体を固まらせたまま。
くぐもっているはずなのに、鮮明にリーバーの声だけを拾っていた。



「支えなんて、二の次でいいから。手を握っていてくれるなら…離さないでいてくれるか。ちゃんと隣で、生きていてくれるか」



それは問いかけではなかった。
切なる思いを込めるように、南の体を抱き締める。
ぎゅう、と強く抱き締めてくる大きな腕に、怪我した腹部が少しだけ痛む。
それでも唇を噛み耐えたのは、怪我を負った自分よりも、抱き締めてくるその大きな体が痛々しく震えていたからだ。



「っ…死ぬな」



か細いリーバーの声。



「お願いだから。…死なないでくれ」



切望する声は、先程しゃくり上げていた南のように。
まるで泣いているような声に、きゅっと南は唇を噛み締めた。



(…ああ…この人は、)



それだけ幾人もの仲間の背中を見送り、その全てを一人で抱え続けてきた。
そんなリーバーが唯一望むことなんて、わかりきっている。

生きること。
生きていくこと。

簡単なようで、この聖戦の世界ではとても難しいこと。



(…本当に…)



根本は誰よりも優しい人間なのだ。
厳しい仕事場での顔も、屈託ない兄貴分のような顔も、彼の一面だけれど。
その根本は、誰よりも仲間思いで優しい心を持っている。

胸が熱く締め付けられる感覚に、気付けば南はリーバーの背中に手を回していた。
しかと己の存在を主張するように、広い背中を抱き締めて。



「…死にません」



声は南も驚く程、震えてなどいなかった。

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