第80章 再生の道へ
「………」
「………」
驚きに満ちたリーバーの顔は、固まったように南を見つめたまま動かない。
沈黙ができる。
じわり、じわり。
滲んでいく目の前の光景。
静寂の空間の中。
目の縁に溜まった熱いものはやがて溢れ、音もなく涙袋から頬へと滑り落ちた。
「…なんで…南が、泣くんだ…?」
南の両目から溢れているもの。
そこに驚きを隠せないリーバーが、やっと動いた口で辿々しく尋ねてくる。
薄いグレーの瞳が見つめる先───そこで南は泣いていた。
普段あまり涙を見せない彼女が、しかしここ最近は涙しか見せなかった彼女が。
声も出さずにじっとリーバーを見つめて、静かに泣いていた。
動揺しか生まれなかった。
南を泣かせるようなことを言ってしまったかと、慌てて脳内で自分の言葉を巻き戻す。
「っ…班長…が…泣かない、から…」
しかし微かに震えた声で南が口にしたのは、予想もしていなかった応えだった。
「…俺が?」
「一人で…なんでも抱えて、いるから…」
「………」
「全部、一人で、背負っているから」
随分と生意気な言葉だと、南自身思った。
それでも止まらなかった。
止められなかった。
堪らなかった。
忘れまいと一人仲間を思い続けているリーバーの心と、その姿勢を思えば。
胸が締め付けられて、痛みは涙へと変わった。
「一人で…そんなに、頑張らないで下さい…っ」
ぎゅっと目を瞑れば、溢れた涙の跡筋が増える。
音もなく顎を伝って離れた雫は、南の入院服を僅かに濡らした。
「私もいます…怪我、したけど…ちゃんと生きてる、から」
ひく、と小さなしゃくり声が生まれる。
止まらない涙は嗚咽を促して、堪らず南はカーディガンの長い袖を目元に押し付けた。
「私も、います、から」
頼って欲しい。
その言葉は続けて出すことができなかった。
しゃくり上げる泣き声に変わってしまったから。