第77章 生と死
「室長、こちらマリです。卵破壊は達成しましたが、ミランダが───」
通信機で外のコムイさんと連絡を取ってるマリ達には、聞こえていないらしい。
キィィン…
僅かな反応を左眼が伝えてくる。
この反応はAKUMAだ。
だけど───
「…なんだ…?」
今まで感じたことがない。
強い反応は一瞬だけだった。
今は微弱なものなのに、どこか寒気がする気配。
───クスクス…クス…
この声もAKUMAの気配なのか?
ブックマン達は気付いてない。
僕にだけ聞こえてる?
「ガァッ」
「!」
師匠の傍にいたティムが飛んでくる。
僕の周りを焦るように回って、その長い尾で指差した。
その先は───
「…まさか」
僕が、リーバーさん達と別れた方角。
「っ!」
「アレン!?」
「なんじゃ…!」
咄嗟に駆け出す。
マリとブックマンの声が後ろからかかったけど、応える暇なんてなかった。
AKUMAは全部倒したと思っていた。
リーバーさん達と別れる前に、微弱な反応は残っていたけれど。
それは瀕死のAKUMAのものかと思っていた。
もう南さん達に寄るAKUMAの脅威はない。
そう思っていたのに。
「くそ…!」
僕は馬鹿だ。
"絶対"なんてことないのに。
こっちの方舟は消えたけれど、研究室の入口を塞いでいるノアの方舟はまだ残ってる。
其処から新たなAKUMAが現れることだって考えられる。
絶対に安心なんてできなかったから、南さんを手元に置いていたのに。
怪我を負った南さんを抱えて戦うなんて、不利なことが多過ぎる。
僕だけじゃなく、南さん自身の負担にだってなる。
それでも手放せなかった。
何処かに身を隠しても、AKUMAに見つからないとは言い切れない。
絶対に安全な場所なんてないから傍に置いた。
一番信用できる場所は、僕のこの腕の中しかなかったから。