第73章 あくまが来た日
「そうだね、仕事だ」
一瞬の沈黙を破ったのは、その鞭をジョニーの腹に貫通させているその人。
アンドリュー支部長。
「───ワタシも、仕事だ」
その低い男性の声が、奇妙に音声を変えて女性特有の高いものへと変わっていく。
同時に、ズズ…とその輪郭も変貌して───
「はじめましょう」
其処にいたのは、もうアンドリュー支部長じゃなかった。
口から血を零して倒れるジョニー。
まるでその姿が、スローモーションのように目に映る。
それと同時に、研究広間の出入口を床から競り上がった巨大な黒い壁が一瞬にして塞ぐ。
「ジョニー!!」
後方から届くタップの声。
でも私は動けなかった。
「私は変身能力を持つ"色(しき)"のノア、ルル=ベル」
浅黒い肌。
額の聖痕。
金色の目。
すぐ目の前に立つ、アンドリュー支部長"だった"その女性の姿とその言葉に、静かに威圧されたから。
「お前達とはすぐ"さよなら"なんだけれど、挨拶はちゃんとしなさいと主人は言うから」
軽く首を傾げて、綺麗な顔のその女性が告げる。
淡々と感情のない声で。
「南ッ!!」
鋭い声。
後方から届いたリーバー班長のその声に、はっと我に返った。
それと同時に、黒い壁から盛り上がるようにして一斉に飛び出してきたのは───
「いかん!椎名逃げろ!!」
バク支部長の声。
───ドッ…!
同時に、強い衝撃が体に走って一気に視界が回った。