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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



✣ ✣ ✣ ✣



「ガラス玉…?」

「そこにあるのは周りを反射して映すだけのもの。そんな世界でラビは僕達を見ていたんです」

「………」

「リーバー班長ならわかるでしょう?貴方は人を見る目がある」



険しい顔つきのリーバーに向けるダグの表情は、穏やかなものだった。
落ち着いた声色で紡ぐ内容は、とても生前のダグが告げるようなものとは思えない。
しかし真っ直ぐな彼の性格が、真っ直ぐ過ぎる故に時として衝突を招くこともリーバーは知っていた。
それだけ確固たる意志があるからこそ、教団でも腕のあるファインダーとして在ったのだ。

それでも、彼に同調する訳にはいかない。



「…ダグ。ラビはただのエクソシストじゃない。"ブックマン"として教団に身を置いていた。その意味がわかるか」

「わかっています。詳しくは知らなかったけれど…世界を記録する為に教団に身を置いているって」

「そうだ。あいつにもあいつの都合ってもんがある。あいつの立場を、何も知らない俺達が否定できるのか」

「…じゃあこの子は?」



僅かに俯くダグの目が映し出したのは、その腕の中に閉じ込めた小さな少女。
リーバーの口が動きを止めた。



「この子の過去も、その立場も、リーバー班長は知らない。なのにこの子を責めていたじゃありませんか」

「……責めて、なんか…」

「この子はリーバー班長の知っている"彼女"じゃないんです。小さな、か弱い少女なんですよ。AKUMAでなくても人の手で簡単に死んでしまう」



ぞわり、と南の体を纏う黒い影のようなもの。
それは南の目も耳も口も塞いで拘束しているように見えたが、見下ろすダグの瞳は慈しんでいるようだった。
五感を奪う行為が、放すまいと抱き竦むようにも見受けられる。

ダグとラビ達のエリゼでの任務は後日情報として知っただけのリーバーだったが、なんとなく察しがついた。



「誰かが守らなきゃいけない存在なんだ」



コレットはまだほんの10歳程度の、幼い少女だったという。
その幼さで親を亡くし、一人耐え忍ぶように生きていた。



「……ダグ…」



そんなコレットを見放せなかったダグ。
そんなコレットを愛したダグ。



「南は、コレットじゃない」



そんな彼女と、南を重ねて見ているのならば。

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