第20章 ➕コーダ
「私、歌います」
不意に澤木は立ち上がり選曲用のタブレットを取る。
マイクを持ってきて、タブレットを目の前に置いたまま、歌い出しを待つ。
「――言い訳さえも忘れている涙で…」
細雪の様な囁く声で歌が始まる。
それは一緒にいながら、両に想いながら互いに知らぬふりをして失恋するデュエット曲だ。
「――『悲しみのママ』愛らしいママ
肌の感触だけ、置き忘れて…」
男性パートでは変声機能を使い、デュオ部分はミックスボイスで歌い切る。
マイクを置いた彼女は飲み物を引き寄せ岩泉の隣に座る。