第1章 プリンセス・プリンス 【Type A】
「ねぇ、あれってもしかして…」
「思った?やっぱり嵐だよね…。」
まずい。
非常にまずい。
キャスケットを深く被っているのにも関わらず、だてめがねを掛けているにも関わらず、どうしてバレてしまうのだろう。
「変装するときいつも帽子にめがねってこの前テレビで言ってたし。」
「背も同じ、だよね?」
コソコソと話してはいても、こんな小さなコンビニでは丸聞こえだ。
早いとこ、買いたいものを買って出てしまおう。
「お願いします。」
ちょっとしたお菓子をレジに出し、店員さんの視線からも逃れるように大げさに俯く。
店員さんは気付いていないようだ。
「324円です。」
「…っと。」
小銭を出そうとして手が滑り、10円玉が床を転がった。
拾おうとして手を伸ばすと、華奢な手がそれを先に拾った。
「あ、ありがとうございま…」
「あの、嵐の気象小雨君ですよね?」
拾ってくれたのは、先ほどのコソコソ話の女の子たち。
バッチリ目があってしまい、今更違うとも言えずに、10円玉を受け取りながら小さく頷いてしまった。
「やっぱり…!撮影なんですか?嵐大好きなんです!応援してます!」
「あー…ありがとう…」
私は手早く支払いを済ませると、女の子達をさりげなく避けて外に出た。
しかし女の子というのは、時々すごい力を見せる。
「あの、サイン貰ってもいいですか!?」
「一緒に写メ映ってもらえませんか!?」
「あ~…えっと、今ちょっと急いでるんで…」
「だ、だったら写メだけでいいです!」
「1枚だけ!お願いします~!」
2人だけなのに、4人にも5人にも感じるほどの気迫で私を挟み撃ちにしてくる。
困ったな…外で勝手なファンサービスは許されていないのに…。
行く手を阻まれ困っていると、急に女の子の間から手が伸びて、すごい力で引っ張られた。
女の子達は悲鳴を上げながら脇に飛び避け、私はそのまま走らされる。
「ま、雅君!?」
「帰りがちょっと遅いから心配になって!」
高い身長に、長い手足。
大きな背中と見覚えのある衣装。
そんな突然現れた王子様に手を引かれ、追っ手から逃れるその様はさながら、少女漫画のお姫様。