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【恋の乱】才蔵さんと過ごす四季【章により裏R18あり】

第5章 夏〜甘い時〜前半


「お前さんの雑炊ほど美味しくはないかもだけど。」
才蔵さんが茶碗に雑炊をよそう。
てっきりそのまま渡してもらえるのかと思いきや、さじですくい冷ますように息を吹きかけている。

(え?)
「はい、あーんして」
さじにすくった雑炊を私の口元に近づける。

私は何だかおかしくてついつい笑ってしまった。
「やだ、才蔵さんたら。
ふふふ。足は痛みますが手はなんともないんです。
自分で食べられますって。」
「俺がやりたいの。ほら、口開けて。」
「子供じゃないんですから」

真面目な顔でさじを差し出している姿が、普段の才蔵さんからは想像もできず、やっぱり笑みがこぼれてしまう。
さじを手で取ろうとするとスッとよけられる。

「ほら、こぼれるでしょ。
早く口開けてってば。」
キッと鋭い目で見つめられる。
それに少し怯み、しかたなく口を開けた。

「はい、召し上がれ」
にっこりと笑顔になる才蔵さんに、心臓がきゅうっとなる。

そしてゆっくりとさじを口に入れられる。
私はさじにのせられた雑炊を口に含み、喰む。
ほのかな味噌の香りと卵の甘みが口に広がる。
「…美味しい!」

私はおかわりをねだるためまた口を開ける。
「口に合ったなら、よかった」
才蔵さんが嬉しそうに口元を綻ばせる。

そして私と才蔵さんは交互に雑炊を食べた。
あっという間に土鍋が空になった。

「ごちそうさまでした。
とても美味しかったです!」
「夕餉も楽しみにしてて」
「夕餉は私も是非お手伝いさせてくださいね」
「だめ。俺がやる。」
「だって二人で作ったほうが早いし、才蔵さんがお料理してるとこ見たいし。」
「見るのはいいけど、手伝いはいらない」

「…」
(本当に心配性なのかな、それとも別の意図?)
私は才蔵さんの気持ちをはかりかね表情を曇らせる。

「不満?」
「…ええ、まあ。」
「いいんだよ。俺がやりたいだけなんだから。
お前さんはゆっくりしてて。早く捻挫なおして。」

これは何を言ってもだめだなと悟る。
私はそれ以上の事を言うのをやめた。
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