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光城の月

第3章 濡れ衣大明神







「ふ~~~」


思いっきり息を吐きながら、お義母さんの部屋の前で背中を伸ばす。

ついに来てしまった、今日この日が。
今日は例の襲名披露がある日で、昨日門の前の一件で話がうやむやになってしまったので、朝早くからこうしてお義母さんの部屋の前にいた。

だけどこれは、向こうから呼び出されたわけではなく自分の意志で足を運んだのである。
今日の私はなんだかいけそうな気がして、お義母さんにも素直な気持ちを伝えられるんじゃないかと、そんな気持ちで襖越しから声を投げ掛けた。


「…どうぞ」

「失礼します」


ゆっくりと襖を開けば、そこにはもう身支度を整え論破する気満々というお義母さんがいて、一瞬負けそうになるがその鋭い目に負けじと顔を引き締める。

これは私の意志でもあり、阿古さんの意志でもある。
絶対に、何がなんでも襲名披露に行きたい。
またみつさんや勝太さんに会いたい。
この「家」に負けたくない──────



「お願いします、襲名披露に行かせてください!」

「駄目です」

「無理を承知で申しています!私はどうしても行きたいんです!」



畳に押し付けた頭をこれでもかとこすり付けながら必死に声を張る。
こんなに大きな声を出したのはいつぶりだろうか。
小学生の時の舞台が最後だったかな、そんなことを思い出しながら彼女からの答えを待つ。

けれど返ってきたのは、無情にもいつもと変わらぬ駄目だという言葉。

この人はいつもそうだ。
阿古さんの本当の母親でないにも関わらず、こんなにも彼女をこの家へ縛りつけている。
彼女が出て行った理由を私は知らない、けれど、彼女がこの家を飛び出さなければ、私はこうして身代わりとしてこの家で窮屈な思いをしなくて済んだというのに────



「……いいです、もう」

「!…待ちなさい!」


覚悟を決めて出て行こうとする私の腕を掴もうとする彼女の手を振り払う。
この家のことなんて知ったことか、私には何の関係もない家だ。こんなところ、こっちから出ていってやる。

そうして襖を開けようとすると、別の誰かが襖を開いた。



「たっちゃん…」

「ちいと話は聞かせてもろうたちよ」


手に手ぬぐいを持ったたっちゃんが、水で顔を洗ったのだろうかどこか凛々しい表情で出て行こうとする私の道を阻んだ。





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