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光城の月

第3章 濡れ衣大明神








ちゃんと、言おう…。
噓はつかずに、本当のことを。
(まぁ今までも噓をついたことはないんだけどね)



「み、みつさんと近くの道場に行っていました」


言葉を口に出して、お義母さんがみつさんや近くの道場のことを知っているとは限らないよな、と気づく。
もし彼女や道場のことを聞かれても、私はうまく答えられないかも…そしたらもっと怪しまれるんじゃ…

一拍、空気が張り詰めたような気がして、私は腔内に溜まった緊張を一気に飲み干す。
すると、予想とは裏腹に正面で「はぁ」という深いため息が聞こえた。



「…またですか」


────────(やっぱり)
お義母さんのその言葉を聞いて、阿古さんが以前からみつさんやあの道場の人たちと関わっていたのだと納得した。
怒っているというか、呆れていると言ったほうがいいかもしれない。

まぁでも、阿古さんがあそこに行きたくなる気持ちをわからないわけではなかった。
正直こんな場所でひとり閉じこもっているよりは、あの人たちと話したり饅頭を食べたりする方がよっぽど───



「貴女には、この御家の娘であるという自覚はないのですか」

「───それは」


…あるわけないんだよなぁ。
と言いたい気持ちをグッと抑えて、私は何も答えられないまま唇を噛み締める。
阿古さんなら、いつもどう答えていたのだろう…
あなたの答えが、私は知りたい。



「明日、六所宮で襲名披露があるそうですね」

「────!!」


伏せていた顔をバッと上げて、彼女を見る。
どうしてそのことを…というかその襲名披露のこと半ば忘れていたな、と額に汗を流す。

そうだった、何故だかわからないけどその約束を忘れていた。
どうしてだろうと考えるより先に、その襲名披露へ行く了承を得なければいけないと拳を握り締める。

(……この流れで行かせて下さいなんて、自殺行為かな)




「……い」

「行かせませんよ、あんな貧乏道場」



────────”貧乏道場”
そう言うお義母さんの顔が何かから必死に逃げているような感じがしたと同時に、私の心の中に得も言われぬ怒りが沸いて出た。

「怒り」
そんな感情を、何故私が抱かなければならないのか。そう考えるいとまもなく、私の喉は熱をあげていた。



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