第1章 偏屈者の行き着く先は(轟 焦凍)
「にしても、なまえもついにこの教室まで進出したのね」
「なまえ?」
耳郎さんの言った固有名詞を繰り返す。「あの子の名前。轟につきまとってるから、校内じゃ割と有名なのよ」と話す彼女の親指の先を辿れば、にこにこ顔で轟くんにおかずをあーんしようとしている女の子……って、どんだけ命知らずなんだあの子!?
ウインナーで唇をつんつんされても、口を真一文字に結んでむすっとしている轟くん。た、助けに入ってあげた方が良いのかな!?と迷っていると、ガタリと音をたてて轟くんが立ち上がった。教室のドアへと向かった彼を、なまえと呼ばれた子も慌てて後を追う。
「焦凍?」
「……」
「ねぇ焦凍、どこ行くの?ご飯食べないの?」
「……」
「食欲ない?保健し」
「散歩」
「……あ〜、」
そっか。となまえが廊下と教室の境目で立ち尽くす。轟くんは振り向きもせず、教室から出て行ってしまった。
残されたなまえは、しょんぼりと項垂れて席へと戻って行く。
なにあれ。すんごい可哀想。
「ブラック・ジャックとピノコみたいね」
耳郎さんが呟いた。「確かに」と僕も同意してしまう。
轟くんの個性は半冷半燃。右で凍らせ左で燃やす。その体質のせいなのか、髪の毛は右半分が冷たい白色で、左半分は燃えるような赤。そして、前髪で隠れぎみだけど、彼の顔の左半分には大きな火傷の跡が広がっている。物静かな彼と、おせっかいな女の子とのセットもあってか、余計”っぽく”見えてしまう。気がする。
「ブラック・ジャックはいいとして、どうすんだよ。あのピノコちゃん」
上鳴くんが、なまえを顎で示して言った。2つ分の弁当箱を前にぽつんと座っている彼女は、箸には手をつけずにじっとしている。知り合いのいないこのクラスで、心細そうにしている彼女に、話しかける人はいない。皆関わらない方が身のためと思っているのか、僕らと同じように遠くからじろじろ見ているだけだ。
「轟、ぜってー逃げたぞ。あいつ、昼休み終わるまで帰ってこねーだろ」
「だろうね」
どうしてあの子は、轟くんにつきまとってるんだろう。確かに、轟くんはカッコいいし、”あの” No.2ヒーロー「エンデヴァー」の息子だから、普通科でも有名なんだろうけれど……。