第1章 【本当は】
「変な感じだな。」
ふと真島が言った。
「え。」
「中学のあの時以来、もう木下とは用事がある時以外は話さねぇって思ってたから。」
木下の胸が痛む。でも言わなくてはいけない、あの時本当に思っていたことを、そして今までずっと言えずにいたことを。
「悪ぃ、俺、あの時」
「うん。」
「本当は助けてもらって嬉しかったんだ。」
真島がびっくりした顔をした。
「だけど俺、自分が格好悪いとかこれで自分もはみごにされたらどうしようとかくだんねぇこと考えちまってそれで気づいたらあんな事言っちまった。」
「まぁそういう事もあるわな。」
真島は静かに言う。
「相手が私じゃ仕方ねーわ。」
「やめろよ。」
木下は少しむっとして言った。
「せっかく今まともに話してんのに。」
「ごめん。」
「お前さ、」
木下は呟いた。
「格好良いよな。」
「何言ってんだ、おま。」
だってさ、と木下は続けた。
「中学ん時あんだけ嫌われて1人でいたのに俺の事助けてさ、しかも俺ひっでぇ事したのに別に責めもしねぇし。」
「何でお前を責めるんだよ。」
「そういう事素で言えるとこが格好良い。」
「馬鹿言え、普通だ普通。」
「へいへい。」
「き、木下、てめー。」
顔を赤くする真島、しかしここでふと少女は真面目な表情になる。
「逃げてたのは私もだ。」
「え。」
怪訝(けげん)な顔で呟く木下に真島は続けた。
「私は木下がこっち向くまで待ってただけだった。本当なら自分は気にしてねーんだってちゃんと示して、自分から行くべきだったんだ。」
言いながら真島は片手を首のあたりにやる。
「やめろよ、掻くなって。」
木下は無意識に首を掻いていた真島の手をとって制止した。後ろで排球部の連中がおお、といったノリで見ているがそっちには気がいっていない。
「お前首んとこ傷だらけじゃん。」
「何か落ち着かなくなると痒(かゆ)くなってくんだよなー。」
「頑張って我慢しろよ、よけーひどくなるぞ。あ、後な、縁下が凹んでた。」
「何で縁下が。」
「自分の前でしょっちゅう掻いてるから嫌われてんのかって思うんだと。」
「いや、縁下は嫌いじゃないんだが、その、えと」
木下は何かの予感がする、と思った。
「ちょっと怖い。」
「やっぱり言いおったっ。」