第1章 【本当は】
「ったく、しょうがないんだから。すみません、いってきます。」
「俺も行く。」
成田も後を追った。主将の澤村が頼むぞ、と声をかける。
「木下さんは、行かないんですか。」
月島に言われて木下は目を伏せた。
「いや俺は。ぞろぞろ行ったって仕方ねぇし。」
「4人も5人も大してかわりゃしないでしょ。」
それでも、と木下は動かなかった。情けないとわかっていたが真島に面と向かう勇気は全くなかった。
そうやって木下含め排球部の連中は縁下以下2年生4人が戻ってくるのを待った。
しばらく待っているうちにやかましい声が響いた。
「てめこら田中、嫌だっつってんだろっ、1人で帰れるっつーの。」
「うるせぇっ喚(わめ)くなっ、1人じゃあぶねーだろがっ。」
「だからって男バレの皆さんと帰りたかねーよ、私かんけーねーもんっ、いーからとっとと離せってんだ。」
「何なんです、アレ。」
田中に匹敵する口の悪さ、それも女子の声に月島が顔をしかめる。
「恥ずかしがってんだろうなぁ。」
木下は呟き、しかしすぐにハッとした。
「いや、わかんねーけど。」
月島はふーんと言って木下を見るがそれ以上は何も言わない。やかましい声は続く。
「気にすんな、真島。俺らの仲間だからどってことねーって。」
「西谷、お前はよくても他の人の立場があんだろがっ、お前はキャラのお陰で許されるんだろーけどなっ。そんで成田は笑うんじゃねぇっ、つかそもそも縁下っ、お前もこいつらのボスなら何とか言ってくれよっ。」
「ボスってあのなぁ、俺を何だと思ってるんだ。」
「田中と西谷黙らせて制御できる奴がボス以外の何だってんだ、おっかねぇったらありゃしねぇ。」
「そこまで言うか。どのみち異議は認めないから。」
「縁下、てめーっ。」
「うるさい。」
縁下に静かに言われた途端やかましい声は収まるが程なくゲホゲホと咳き込む声が響き始め、木下以外の排球部の連中がなんだなんだと思っているうちに2年生達と一緒に真島優子その人が来た。いや、田中に襟首掴まれて半分引きずられているというのが正確なところだ。その横には西谷、後ろには成田、先頭は縁下だった為木下は逃げ出した奴が小隊にとっ捕まり連行されてきた感じに見えてしょうがない。