第5章 promise
「おうおう、ひよっこが出しゃばってくれたらしいじゃんか。あのおっさんに肩入れするつもりはねぇけど、俺達古参にだってプライドはあるわけだ。悪いが痛い目、見てもらうぞ?」
だが、その審神者は足を止めた。彼の首元に冷たい感触が押し付けられた為だ。まるで息を吸って吐くように、とても自然な動作で山姥切が男へと牙を剥いた。
「俺の主に近付くな。死にたいのか」
獣の瞳を覗かせ、山姥切は審神者を理仁へと近付けまいとする。一瞬審神者は「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げるとそのまま抗戦するかと思われたが、尻尾を巻いて逃げていく。ただの口だけだったようだ。
少しずつ山姥切は理仁への態度を変えていく、その様を己の目で見て知る度に理仁はどんどん山姥切へと心を寄せていく。彼とならきっと、自分が欲するものまで辿り着けるのではないかと……思いながら。
◇◆◇
本丸にようやく帰ると、それぞれ疲労の色を顔に滲ませていた。見知らぬ人の視線に、長時間晒されたのだ。無理もない。特に稽古や出陣の指示は出さず、理仁は休むようにとだけ彼らに告げる。本丸特有の木材の香り、庭で咲く花の甘い香りに床が軋む音に何となく安心してしまう。
それはきっと、既にここが自分たちの帰るべき家になりつつあるからだろう。
理仁は一人自室に戻ると、机に向かい今日の大演練会に関する報告書という名の感想のようなものを書き綴った。参加者はこれを書くのが必須とされている。後回しにして、明日の仕事を増やしたくはない。早々に片付けにかかる。