第7章 星標
「総司……ちょっと話があるんだが……」
土方さんが神妙な面持ちで切り出した。
………ほら、来たよ。
「ああ……その前に近藤さん。
あんたは部屋に戻ってろよ。
横でそんな顔をされてたんじゃ、まともに話も出来やしねえ。」
「あ……いや、しかし……そういう訳にもいかんだろう……」
「いいんだよ。俺がきっちり話しておく。」
「………そうか?……それじゃあトシ、すまないが頼むよ。」
「ああ。」
「本当……局長としてどうかと思うが……総司にも…申し訳ない。」
近藤さんは深々と頭を下げた。
僕が「構いませんよ」と声を掛けると、近藤さんは何度も「申し訳ない」と言いながら部屋を出て行った。
暫くの間の後、今度は僕の方から
「それで?…話って何です?」
と、切り出した。
土方さんはまた一つ溜め息をついてから話し出す。
「……伊東さんがな」
「伊東さん?」
いきなり思いがけない人の名前が出てきたので、僕は驚いて思わず聞き返した。
「伊東さんが新選組を抜ける事になった。」
「ああ…そうですか。いずれかはそうなるだろうと思ってましたけど……
それで今日の昼間は何だか騒がしかったんですね。」
「まあ……そういう事だ。」
「それにしても、近藤さんがよく了承しましたね。そんな勝手な事……」
「どうやら山南さんが生きていたのがばれちまったらしくてな。
参謀の自分を騙すような組織には居られないんだとよ。」
土方さんは苦々しい顔をして、吐き出すように言った。
ああ、僕の所に薬を持って来てくれたのを、伊東派の隊士にでも見られたんだろうなあ…。
「伊東さんにしてみても騙されたの云々は穏便に離隊する為のこじつけで、
自分の息が掛かった隊士を引き連れて御陵衛士だか何だかっつう組織を
立ち上げるのが目的みたいだがな……
あくまでも脱隊じゃなくて分隊だって喚いてたが。」
どうして山南さんが生きている事がばれてしまったのか……
土方さんの事だからそんなのはもうとっくに調べ上げてるんだと思う。
でもそれが僕や有希ちゃんに関わる事だって分かったから、何も言わずにいてくれてるんだよね……きっと。