第2章 紳士君、大誤算。
~天音side~
「ただいまー。」
「あ、おかえりー!」
玄関の方で少しくぐもった声が聞こえる。
孔明が帰ってきたようだ。
がさがさと袋を鳴らして、どっかりと疲れたようにベッドに座った。
軽く手を洗ってから私も隣に腰掛ける。
袋の中身は・・二リットルの炭酸飲料といつも孔明が読んでいる少年誌。
ぼんやりとしている孔明を尻目に、
手早くテーブルを片付けて二人分のコップを用意する。
ちらりと孔明を横目で見る。
たいした運動なんてするはずも無いが、外はかなりの猛暑だったようで、首筋には幾筋かの汗が玉になって、襟からそのまま背中へと緩やかに流れていた。
伏し目がちな目は何も無いところを見つめているのか、どこか胡乱げで、それでいてひどく煽情的で。
薄く開いた唇がやけに艶かしくて、そのままじっと見つめていたら
「・・え、何?」
こちらの視線に気付いていたらしい。
先程までの男の色気はどこへやら、きょとんとした表情で問いかけられた。
「・・・な、んでもないよ。」
あ、そう・・・。と間延びした声を背中に受けながらそそくさとキッチンへ向かう。
滅多に孔明のあんな顔は見ない。
私の知っている孔明は、いつもまるで犬のように甘えてくるばかりで、かっこいい、というよりも可愛いなぁというか・・・。
それがさっきみたいな、なんていうかこう、男性特有の色香を発するなんて。
急に激しくなった動悸と顔の火照りを感じながら足早にキッチンへ向かった。