第70章 笑顔
「みわ……」
力なく腰に回される腕。
ひやりとした芝の感触を半身に感じながら、私と涼太は暫く身を寄せ合い、抱き合っていた。
何を言ってあげられるだろう。
悩んでいる涼太に、なんて声をかけてあげたらいいんだろう。
そんな事ばかり考えてしまっていたら……
「……みわ、気遣わせて、ごめん」
まるでこころの中を読まれてしまったような、その言葉にうまく返事が出来ない。
「あ、あ、あの……」
「なんか……言ってくれようとしてる? いいんスよ、このままそばに居てくれれば、それで」
かえって涼太に気を遣わせてしまって、どうするんだろう。
「ご、ごめんなさい、私もっと……」
何も、役に立てない……。
もっと、何か……
言ってあげたいのに。
頑張って?
勝てるよ?
大丈夫だよ?
だめだ、何を言っても薄っぺらくなってしまう。
そういうんじゃなくて……
もっと、もっと。
「ね、みわ、ホントに。支えてくれる人の存在って、何も言わなくても、今ここにこうして居てくれるだけでさ、力になるんスよ……」
緩く腰を纏っていた逞しい腕がスルリと動き、優しく後頭部に触れる。
顔と顔の距離がどんどん近くなっていく。
吐息が前髪を擽りそうな近さに、思わず呼吸を止めてしまった。
「みわ、なんで息止めてんの?」
クスクスと肩を揺らして笑うその表情は、いつもよりも力が無くて。
更に影が近づき、反射的に目を瞑った。
「……可愛い、みわ」
少し乾いた唇が、ふわりと重なる。
それは次第に、頬に当たる冷たい風も気にならないくらい、熱く深いものになっていった。