第8章 こんな夜じゃなきゃ
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IH予選を前日に控えた夜。
いつもより早めの風呂を済ませると、程良い倦怠感が身体に纒わり付いてきた。ボサボサの髪もそのままに、リビングのソファに長々と寝そべる。
アイドルと芸人の浮ついた声が姦しいテレビを眺めていると、「なにこの座り心地悪いソファ」と母に強烈なヒップドロップをかまされ、「ギャクタイダ!!」と悲鳴を上げて、部屋へと逃げ込んだ。
げっそりとしながら肩に掛けてたタオルを適当に放り投げると、ベッドへとダイブした。
「くそぉ 尻いてぇ…」
母から攻撃された臀部をさする。試合を明日に控えた息子にすることだろうか。ひでぇ。
僅かに訪れていた眠気もどこかへ飛んでしまった。 だが、そのうち眠くなるだろうとゆっくり目を瞑る。
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おかしい、一向に眠気が訪れる気配が無い。おい夜だぞ仕事しろよ。
どうにか寝ようとゴロゴロと寝返りを打っていたが、冴えた頭では寝返りで酔ってしまい身体を起こす。
「……はぁ」
ボサボサの頭を掻きながら、部屋をぼうっと眺める。思ったように眠れないことへの僅かな焦りが苛立ちになっていた。
疲れを取るために寝るのにストレス受けてるって本末転倒。
『しょうがないから、眠くなるまで起きていよう』と割り切ってしまう。人間諦めって大事。
涅槃菩薩みたいな体勢でぼうっと部屋の壁を見つめていると、悟りには至らなかったが、研磨に電話してやろうと思い付く。
何故って、それは暇だから。後は眠れぬ夜を過ごす道連れが欲しい。寂しいより『最低なやつ』という称号を貰う方がマシだ。
多分アイツのことだからゲームに勤しんでいることだろう。この間部活終わりに寄り道誘ったところ、『ゲームのイベント完走しなきゃだから。』と断られた。既に寂しいやつじゃないかって?
うるせぇ。
そうと決まれば電話、と寝っ転がったままベッド横の机の上の携帯に手を伸ばす。そのかいあってか横着が祟り、伸びたふくらはぎが物の見事につる。
「ァヴェッ!!」と悲鳴をあげた後、声にならない声でひとしきり藻掻く。
誰だバチが当たったとか言ったやつ。今度の土曜に朝昼晩三食 米と漬物だけの粗食になる呪いをかけてやる。
もれなく飲み物はセンナ茶一択だ。快便になれ。