第3章 居候です
「あーお腹すいたー」
移動教室やトイレに行くのに廊下を歩く度、ヒソヒソと聞こえる女子の声と痛い視線。
そのおかげでお昼休みにはどっと疲れていた。
「もー無理…」
「隣にいる私も疲れた」
「ごめん…」
「いいけど、本当黄瀬君って人気だね」
「ね…。あんなん仮面なのにね…」
「コラコラ」
つくづく女子って怖いなーと思った。
直接言う度胸もないくせに、陰口を叩いて距離を置くことだけは一丁前。
そしてそれは先輩も後輩も関係無く、だ。
ちなみに同級生は…、
「なまえ、黄瀬君のお迎え来たよ」
「え?今?」
「お昼一緒に食べよ〜とかじゃないの?」
「えぇぇ…」
普段の私を知っているからなのか、黄瀬は大好きでも私に突っかかってきたりはしない。
それに、ベタベタしているのは黄瀬の方だから私に言うことなんて何も無い。黄瀬は黄瀬、私は私。
…と、以前誰かが言っていたのを聞いた。
「なまえさん!急遽ミーティングあるらしいんで、集合っス!」
「あー、そゆことね。了解」
「早川センパイ達はさっきそこで会ったんで、言っておいたっス!」
「おー、やるじゃん」
「へへへ」
でもまぁ、こうやってご褒美を待つワンコみたいにされる度につい頭を撫でてしまう私も、注意が足りないんだと思うけど。
「早く行きましょ!」
「ハイハイ」
「行ってらっしゃい〜」
黄瀬に連れられて空き教室に行くと、既に主力メンバー全員が揃っていた。
私と黄瀬は空いていた席に座る。
「飯食いながらでいいから聞いとけ。今度、練習試合することが決まった。急な日程ではあるが、約2週間後の26日、日曜日だ」
確かに急だが、すぐに関東大会の予選もあるしモタモタしていられない。
そんな中、練習試合が取り付けられたのは有難いことだ。
「相手は去年設立された、東京の誠凛高校だ。新設校とはいえ一応インターハイ予選決勝までは行ったらしいが…」
「まだ未知数、って感じだな」
笠松先輩の説明に、森山先輩も続ける。
…確かに未知数だ。
「あれ、誠凛高校って確か黒子っちが…」
帝光中で『キセキの世代』の影として機能した、幻のシックスマン。
あの子が誠凛高校に入学している。
それだけでも十分未知数だ。
『キセキの世代』以外とバスケをする彼を、私は想像出来ない。