第19章 君、金と薬に溺れていくことなかれ
「薬……抜けきれないんですね。」
亜久里が扉に手をかけたとき、小さく声が聞こえてきた。
棗だ。
ゆっくりと身体を起こし、ジッと亜久里を見ている。
「……うるせぇ。」
「今やめないと、このまま一生何も変わりませんよ。」
「……だから?」
「……もうやめましょうよ。あんたは本当はいい人なんだから、薬になんか負けたらダメだ!!」
静かな部屋に棗の声が響き渡った。
「……何がお前にわかんだよ。」
―――何もかも恵まれているお前に何が分かるんだ。
ドアノブを握った手が僅かにふるえている。
感情が露(あらわ)になっているのだ。
もう、その大きな身体でも隠しきれない。