第6章 *記憶
「私ね」
美亜のチャーハン、好きだよ。
彼女がそう言うのと、私が皿をテーブルの上に置くのと、どちらが早かっただろうか。
あまりにも唐突なその言葉に、私はただ呆然と希美を見つめることしか出来ない。
それでも、彼女は微笑み続けていた。
…え、え、なんだこれ。
反応に困る。
私が言葉を探していると、彼女は再び口を開く。
「だから、今日もこれを食べられて、幸せだなって」
しあ、わせ。
チャーハンをたべられる、そんな当たり前のことを、彼女は「幸せ」と言う。
それはきっと、彼女がもう、この世のものでは無いから。
「生きているうちに、今ある日常を大切にしろ」。きっと、彼女はそう言いたいのだろう。