第44章 【起きて欲しくなかったこと】
「美沙っ、やめろっ。」
聞きなれた誰よりも敬愛している義兄の声が響き、美沙はハッとした。
「兄さん。」
呟いて立ち止まり振り返る。階段を降りた側、踊り場に息が若干上がっている義兄とそれよりももっと走ったのかハアハア言っている木下がいる。
振りかぶっていた美沙の片手はすんでのところで止まり、力が抜けたようにだらんと垂れ下がった。その隙を見て田中が美沙を引っ張り、階段の踊り場まで隔離する。
「美沙。」
義兄が優しく言う。
「兄さん、私。」
美沙の目からぼたぼたと涙が溢れる。
「ごめんよ、俺のせいで。」
美沙はそんなのことは思っていないと口を開きかけるが義兄は言わせない。
「少し行ってくるからね、みんなと一緒にいるんだよ。」
それから義兄は仲間達に言った。
「悪い、美沙を頼む。またぶっ飛びそうだったら無理矢理にでも抑えてやって。」
言って義兄は事の発端になった連中のところへ歩を進めた。美沙はその背中を涙でぐしゃぐしゃの顔で見つめていた。思う、義兄は今めちゃくちゃ怒っていると。
次章に続く