第43章 【岩泉の心配】
自分には何か憑いているのかもしれない、と旧姓薬丸美沙、現縁下美沙は思う。及川と遭遇してからやたら青葉城西の誰かと関わることが増えているからだ。
という訳でとある日の帰り道、縁下美沙は岩泉と一緒に歩いていた。別に示し合わせたわけではなく偶然である。
「珍しいですね、及川さんがいてはらへん(いらっしゃらない)って。」
「クソ川は甥っ子の面倒見ないといけねーってんで先帰った。あと、あいつに丁寧語は必要ねえ。」
「へー、甥御さんいてはったんや。ん、あれ、今のよう丁寧語ってわかりましたね。」
「何かにつけてお前とでくわしてそんだけ関西弁使われりゃなんとなくわかるわ。」
「そんなもんやろか。」
出くわしてるという点では美沙も一緒だがそれは言わないでおく。
「で、おめーの方は。前に階段から落とされた話はどうなったんだ。」
「いやそれが結局どこの誰がやったんかわからんまま、その後別に何か起きることもなくフェードアウトしてもて。」
その後週のほとんどを放課後は図書室で過ごし、義兄と一緒に帰る羽目になったことは黙っておく。が、岩泉は美沙が何か隠していることをすぐに見抜いた。
「まだなんかあるな。」
「何でっ。」
「おめーの兄貴が何もせずにそんままってこたないだろ。」
「うちの兄さんを一体何やとっ。」
「決まってんだろ、行き過ぎシスコンヤローだ。」
「えらい言われよう、やめたげて。」
それを言ったら美沙は行き過ぎブラコン女ということになってしまう。とは言うものの否定はしづらく、岩泉は美沙から実際の話を聞くまで次の話題に移らない構えである。
「えーとぉ、」
渋々美沙は現状を話した。それを聞いた岩泉の顔が引きつる。
「改めて言うわ。」
岩泉は言った。
「それビョーキだ。」
美沙はしょぼんとするしなかった。
「で、よけーなお世話だろうがよ、」
岩泉は付け加える。
「おめーも心配だ。」
「え。」
「兄貴は前から一線越えかかってて、お前もどうやらそれっぽい。近いうちに兄妹の線踏み越えるんじゃねーか。」
「そんな、まさか。」
美沙は声を上げた。