第39章 【伝説の始まり】
外は雨が降っていた。排球部は体育館でやる為部活は普通に行われたがそれでも湿った空気と雨の音は何となく男子排球部のメンツの気分を少し下げてくる。西谷や日向辺りはいつものハイテンションだが縁下力はふと、しばらく意識してなかった事を思い出していた。
それは初めて妹になる子に引き合わされた時の事、その一部だ。
母に連れられてやってきたその子を見た瞬間思ったのは良さそうな子だが繊細そうだという事だった。見た目はパッと見て可愛いという感じではなかったけどどうこう言うつもりはない、ゲームじゃあるまいしいきなり美少女がきましたなんて逆にあったら不気味だ。
人見知りなのもすぐわかった。ろくに目を合わせない。口数も少なくて話がなかなか続かない。緊張のせいで体全体がプルプルと小刻みに震えている。
とにもかくにも全体的に細っこくてこの子何食って生きてるんだろう、そもそもおばあさんが亡くなってからちゃんと食べてたのかとすら思った。袖から覗く細い手首を見てまがりなりにも鍛えている自分のごつい手で触ったら折れるんじゃないかとハラハラしたのも覚えている。
天候のせいで薄暗かった和室、両親が同席の中でお互い何を話したのかはほとんど覚えていない。多分自分も緊張していたんだと力は思う。覚えているのは両親が一旦席を外した以降の事だった。
「えと」
2人は長らく黙ったままだった。しかし沈黙ばかりしてられないと力から話しかけてみた。
「は、はひっ。」
美沙はビクッと肩を震わせる。びっくりしたのか語尾がおかしい。
「あ、う、これは別にギャグではなく、」
当人も気づいたのか慌てる。
「舌もつれただけでっ。」
慌てる様が試合前に緊張した時の自分の後輩に似てなくもないと力は思わずクスリと笑った。
「大丈夫、わかるから。」
「あああ、すみません、すみません。」
祖母譲りの関西弁イントネーションが抜けきらないまま言う美沙、何となくおかしくて少し緊張がほぐれた力は謝らなくていいよと、言ってやる。美沙はどうも、と呟いた。
「その、」
力は話を続けた。すぐに話題が出て来ず一瞬焦るがふと美沙が肩から下げているガジェットケースに目が行った。
「肩から下げてるそれ、スマホのケース。」
尋ねるとさっきまでよりしっかりした声でそうです、という答えが返ってきた。
